2008年5月9日金曜日

科学的根拠に基づいた医療(2)


(1)の続きです。
4月の歯科医師会雑誌に「歯科医療の科学的な捉え方」というテーマのページのに書いてあったことをもとに書かせてもらいます。
科学的根拠は、研究者によって論文にまとめられます。しかしながら、その論文に書かれている医学統計にも注意が必要です。

例1.「原子力発電所周囲で急性白血病の発生率が高い!!」というテーマで原子力発電所周囲1Km以内(A地域)と原子力発電所の立っていないとある地域の1Km(B地域)で、人口当たりの急性白血病の発生率を調べたとします。もし、A地域に発生率が高いという結果が出たら、ニュースや週刊誌で、センセーショナルに報道されそうです。
しかし、少し医学統計の勉強をした人や、EBMの手法を知っている人は、「ちょっと待てよ!!」って思います。例えば、B地域よりもA地域のほうが、平均年齢が高いのではないか?(年齢が高い地域のほうがの癌の発生率が高いです。)

このことを「交絡(こうらく)」といいます。統計を考えるときには、常にこの交絡を考える必要があります。難しくはありません簡単に言えば、A地域とB地域で、比べようとするもの以外(年齢、男女比、、、、など)は、なるべく一致している研究のほうが正しいですよって言うことです。

例2.「この育毛剤を試した人の90%の人から毛が増えたと回答がありました!!」
「うちの歯科医院で治療したインプラントは90%成功しています!!」
「うちの歯の移植は、10年経ってみてほぼ8割がた問題ありません!!」

こういう宣伝は、注意が必要です。ここにも交絡が隠れています。
まず、後ろ向き研究(過去にさかのぼってデーターを集めている)か、前向き研究(一人一人の経過を追っているもの)かです。

もし、後ろ向き研究なら、脱落した人について、どういう風に処理しているかが大切です。例えば、

「この育毛剤を試した人の90%の人から毛が増えた(発毛を実感した)と回答がありました!!」
この回答した人は、この製品を効果のあるいい製品だなと思って回答した人が多いはずです。そうであれば、発毛が上手くいった割合は実際よりも高いはずです。
そう思わなかった人や効果の認めなかった人は、回答しづらいはずです。回答していないのではないでしょうか。もしかしたら、違う製品に切り替えた人がいるかもしれません。だいたい、回答してくる人のおおよそは、この製品をよく思っているフアンの人たちであるに違いありません。全部をひっくるめたトータルの数字でみた割合かどうか分かりません。すなわち回答してこなかった人はどうなっているのか?ということになります。


「うちのA社インプラントは90%成功しています!!」
育毛剤の例と同じです。そのA社製のインプラントを打った歯科医院のデーターに残ってくる人は、予後のいい患者さんが多い傾向にあるはずです。もしかしたら、インプラントの予後が思わしくなく違う歯医者さんで除去されているかもしれません。また、何らかの理由で、術後、もうこの歯科医院には行くまいと通院を中断した患者さんも居るはずです。
すなわちこのデーターから脱落している患者さんの予後は、どうなっているの?っていうことになります。

もし、前向き研究であれば、この脱落した患者さんの交絡が少なくなります。


身近な例では、今年の冬も、インフルエンザとタミフルの因果関係について、関係ある、いやない、の議論されていましたが、結論がなかなかでないのはこの交絡があるからです。
まして、人間はそれぞれ違います。(動物実験のほうが交絡が少ないといわれています)
人間って同じ年齢、性別も同じでも、一人一人生活習慣も違えば、体重、身長、、、、、個体による違いが大きくあります。その1人1人違う人間を集団として考え、傾向を調べるのですから交絡だらけです。
また、逆に臨床現場では、このEBMを重視しすぎると1人1人患者さんは違うということを軽視しがちになります。